波に追い詰められた決死の哀れな旅人
「歩いて行けるやん!」──あのときの自分を、今すぐ呼び出して説教したい。
地図上ではたしかに砂浜が細くつながって見えた。
「よっしゃ、これや」と、雨にもかかわらず、足取り軽く晩成海岸へと向かったのだった。
強風波浪、危機一髪
2024年8月11日、晩成温泉で湯に浸かったあと、ホロカヤントー竪穴群の復元竪穴住居を見学した。
帰り道、Googleマップを眺めていたら、目に飛び込んできたのが「十勝のグランドキャニオン」の文字。
海岸沿いの砂浜を歩けば行ける──らしい。
うん、こういうときの「らしい」が一番あぶないのだ。
このときの自分にひとこと言いたい。
「お前、それアカンやつやぞ」
いざ出発!しかし不吉な予兆が…
歩き出してすぐ、砂浜に見慣れぬ漂流物を見つけた。
ロシア語のペットボトルだ。しかもよく見ると、中国語も混じっている。
「……国際的やな」などと妙な感心をしている場合ではない。
貝がびっしり貼りついたウキ玉も転がっている。
荒波の置き土産だ。
にもかかわらず、私は「ま、北海道あるあるやな」と都合よく片付けて前進してしまった。
荒れる海、強まる風、そして満潮の恐怖
最初は穏やかだった波が、進むごとにみるみる勢いを増してきた。
「風、強ない?」「波、高くない?」──そんな疑念を、なぜか笑い飛ばしてしまったのだ。
「もう少しでグランドキャニオンやし!」と、自分に都合のいい根拠で気合を入れる。
このときの自分に、もう一度言いたい。
「それこそアカンやつやぞ」
もう後戻りできない!?波と岸壁の挟み撃ち
砂浜の幅がじわじわと狭くなっていく。
「え、ちょっと待って、これヤバいやつちゃうのん?」と思った瞬間だった。
突然、強風にあおられた波が、膝上までドーンと襲ってきた。
靴の中が即座に海水で満たされ、脳内で何かがプツンと切れる。
「グランドキャニオンとか、もうどうでもええわ!」
岸壁と波のダブルパンチに追い詰められ、私は一気にサバイバルモードに突入した。
命からがら脱出…ヘソから下はびしょ濡れ&砂まみれ
最後はほぼ岸壁に体を押しつけながら、波が引く一瞬の隙を狙って進むという、
見た目にはかなり間抜けな格闘技を繰り広げた。
「これ、遭難したらニュースになるやつやん……」と本気で思った。
なんとか無事に出発地点へ戻ったときには、ヘソから下が完全にびしょ濡れ&砂まみれ。
旅人というより、海から打ち上げられたアザラシの方が近かったかもしれない。
教訓:次は満潮の時間を確認してから行こう
海沿いの砂浜は、干潮と満潮のタイミングで通行可否が劇的に変わる。
「行けるやん!」は、海にとって何の説得力もない。
次はちゃんと調べてから行こう。
……いや、ほんまに。
でも、振り返ってみれば、あのちょっとした恐怖とバカさ加減が、妙に忘れられない。
旅って、そういう“うっかり事件”のほうが、後で一番笑えるのだ。

波に追い
壁にへばりつく 哀れ旅


晩成海岸マップ

