六月の帯広、寿司と夜風と（帯広はま寿司）

2025年10月14日

2024年6月14日――この日は、きっと忘れられない日になるだろう。
大学進学をきっかけに北海道・帯広へ移住した息子を訪ねた。

案の定、部屋は雑然としている。入学から2か月近く経つというのに、寝床さえ定まっていない。観光どころではないと腹をくくり、湿気対策をしながらニトリで1万円ほどのパイプベッドを購入。
北海道の6月は意外に暑い。汗だくになりながら、息子と一緒に部屋を整えた。

「ほんと無頓着なやつだな」と思いつつ、まあ細かいよりはいいか……と苦笑い。
ひと段落ついたのは20時をまわっていた。

「そろそろ飯でも行くか」
「はま寿司、行ってみたいんだ」

はま寿司に行ったことがないという息子の提案に、もちろん異論はない。
車で10分ほどのドライブ。帯広の夜風が窓から吹き込んでくる。

店に着いてみると、思っていた以上にいい雰囲気だ。初めて来たけれど、これは正解だったな。
ふたりで寿司を次々と皿に取っていく。とめどなく食べ続けるのも久しぶりだ。

腹が満たされたころ、息子がふいに財布から札を出した。
「今日は、ここは俺が……」

初バイト代がちょうど入金されたという。
まさか自分のバイト代でごちそうしてくれるとは思わず、いつもの調子で遠慮なく食べてしまった自分を思い出して笑ってしまう。

「先に言えよ！」

でも、そんなやりとりも悪くない。
20歳を前に、こういう瞬間を迎えるとは思わなかった。

外に出ると、少しひんやりとした夜風が頬をなでた。
ああ、北海道はこうでなくちゃ――そう思った夜だった。

なりさん

夜風ふく
　はま寿司の夜　息子（こ）の声

基本情報