夕方、鹿追のまちに着いた。とりあえず焼肉を食った。うまかった。
それから居酒屋に寄った。地元の常連らしきオヤジたちが何やらガハハと笑っていた。
スナックにも顔を出した。地元のママとのおしゃべりでも楽しもうかと思って扉を開けたら、出てきたのは70歳くらいのダンディーな男性だった。ママではなかった。「大阪から?」と聞いてきた。角ハイボールを飲んだ。
外に出ると、北海道の夜は本当に真っ暗なのである。街灯もまばらで、闇がどこまでも広がっている。
そんな暗闇の中に、隣に明るい光が浮かんでいる。吸い寄せられるように近づいていくと、その名も「びっくり寿司」。4軒目である。
飲むか?ごはんか?
暖簾をくぐった瞬間、大将がにやりと笑って言った。
「食べるの?飲むの?」
この店構えと時間帯、迷う余地はない。「飲む」に決まってる。
木のカウンターに座って、冷えたビールと刺身盛りを注文。空調なんてものはない。
天井の扇風機が気怠く回っているだけだ。昭和の夏はこうして乗り切るものだと、なぜか納得してしまう。
ビールを一口飲んだ。沁みる。もう一口飲んだ。沁みる沁みる。
昭和の夏はこうして乗り切るものだと、なぜか納得してしまう。
チョウザメが泳ぐ寿司屋
ふと顔を上げると、カウンターの前に水槽。……チョウザメが泳いでいる。
「なんで寿司屋にチョウザメ?」と聞けば、店主の語りが止まらない。
鹿追町は10年前からキャビア生産に挑戦しているらしい。
オスメスの判別に4年、キャビアが採れるまでさらに6年。実に9年越しの粘り腰。
ついに今年、初めてキャビアを収穫したという。20gで14,000円。こりゃびっくりだ。
さらに出てきたのは「チョウザメのルイベ」。口に含むと、上品な脂が舌の上でふわっと広がる。正直、ちょっと感動した。
鹿追からカナダまで
店主の話はまだ続く。鹿追はカナダ・ストニープレイン市と姉妹都市で、高校生が3万円でカナダ留学できる制度もあるとか。
地元の自然ランドのこと、旅行アプリでのPRのこと、熱量はまるで「寿司屋兼・観光大使」。
びっくり寿司は町の語り部
店を出たのは21時55分。会計は3300円。財布にもやさしく、心にもじんわり残る夜だった。
「びっくり寿司」はただの寿司屋ではない。
チョウザメを肴に、鹿追の夢や挑戦を肴に、旅人に語りかける町の語り部だ。
扇風機がくるりと回る店内で、私は妙にあったかい気分になっていた。

びっくりの
扇風機ごと 酔いしれる


基本情報


店名 | びっくり寿司 |
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住所 | 北海道河東郡鹿追町東町1丁目18 |
電話 | 0156-66-2941 |
営業時間 | 11:30~14:00/17:00~23:00 |
定休日 | 第1・第3木曜、不定休 |
特徴 | 寿司+定食・多彩なメニュー |
名物 | チョウザメ料理 |
価格 | ランチ660円~、寿司2,200円~ |

